こんにちは、ラクス技術広報です。 AIツールが開発現場に届いたあと、何が起きているのか。ChatGPT EnterpriseやGitHub Copilotが展開されてしばらく経ったころ、ラクスの開発本部横断組織「開発管理課」はある問いに詰まっていました。ツールは使えている。使っているエンジニアもいる。でも組織として本当に生産性が上がっているのか、確かめる手段がなかった。 実際に声を集めてみると、大きく個人差が開いている状況でした。AIを使いこなしてどんどん先へ進む人と、今まで通りのやり方を続ける人。「チームによって開発スピードに差が出てきている。個人の問題というより、組織として型がないことが課題だと感じていた」と担当者は言います。 ラクスは楽楽精算・楽楽明細・楽楽自動応対など複数のクラウドサービスを展開しており、開発組織は商材ごとに独立したチームで構成されています。チームが独立しているぶん、AI活用のやり方も自然と各チーム任せになりやすく、活用度にムラが出やすい環境でもあります。このムラをどう埋め、組織全体に浸透させるか。開発管理課がどう向き合っているのかを、担当者に語ってもらいました。 「浸透しているかどうかが見えない」問題を解くために、開発管理課が最初に選んだ一手は計測の仕組みを作ることでした。 参考にしたのはSalesforceが実施していた48項目にわたるAI浸透度調査。ただ、そのまま導入するのは規模が大きすぎる。削り込んでいっても20問ほどになってしまい、それでもまだ多い。さらにラクス特有の難しさがありました。ラクスの開発組織は商材ごとにチームが独立しており、技術スタックも文化も異なる。単一組織向けに設計されたサーベイをそのまま当てはめても、実態を正しく測れない。加えて「どのツールを使っていますか」「その機能は使っていますか」という質問は、ツールや機能が変わるたびに使えなくなる。「変わらない計測軸で、AI導入を継続的に観測するにはどうすればいいか」という問いに、担当者は上長と二人で揉みに揉みました。 行き着いたのが「プロセス別AIコミット度」という設計軸です。実装・テスト・設計・要件定義といった各開発フェーズで、どれだけAIを活用しているかを問う。ツールの名前ではなく「工程への組み込み度合い」を問うことで、環境が変わっても変わらない比較軸を持てるようになりました。これにより、管理職への相談も「感覚値」から「数値に基づく議論」に変わっていきました。 第1回サーベイを実施すると「一歩目を踏み出せていない人が一定数いる」ということが数字としてはっきりしてきました。次の問いは「なぜ使われていないのか」でした。 具体的な計測設計については、2026年1月開催のイベントで詳しく発表しています。 サーベイを取りながら、担当者は管理職や現場メンバーへのヒアリングも重ねていました。すると、「使わない」には想像以上に多様な事情があることが見えてきました。 担当者の印象に残っているのは、こんな声でした。 「"AI活用してます"とは言いにくい」 「ハルシネーションでテストが増えて、むしろ手間が増える」 「試行錯誤の時間が取れない」 「AIとチャットはするけど、開発業務で効率的に使う方法がわからない」 こうした声を踏まえ、「まず一歩目を踏み出せていない人をケアする」という方針で勉強会を設計しました。GitHub Copilotのベンダー開発者を招いたQA付きセッション、社内のAI推進者によるClaudeの活用ハンズオン。ハンズオンでは「AIとチャットするだけでなく、実際の業務にどう組み込むか」にフォーカスしたプレゼンを行い、参加できなかったメンバーのために動画も社内に公開しました。「特にあまりAIに触れていなかった方々からは『ためになりました』という声が届きました」と担当者は振り返ります。 2025年9月の第1回から約5ヶ月後、2026年2月の第2回サーベイでは、開発本部全体のAI生成比率が約15ポイント上昇(43.3% → 58.3%)。「生成比率75〜100%」と回答したエンジニアの割合も30%から50%以上に増加し、AI活用が個人の試みから組織的な広がりに変わってきた手応えがあります。 一部のチームでは、より具体的な成果が出ています。 ただ、組織全体を見渡すと、AIはまだ浸透しきっていません。商材や個人のスキルによって、活用度にムラがあります。AI活用が進んでいるチームのやり方は、そのチームメンバーの体に染み込んだ暗黙知になっており、「隣のチームでも再現したい」となったとき、そのままでは届きません。「何ができるか」を検証するフェーズは超えた。「組織全体にどう行き渡らせるか」が、今期のスタート地点です。 なぜAI活用を組織として標準化するのか。答えは「開発を速くしたいから」だけではありません。 ラクスの開発組織が最も重視している価値観は「顧客志向」です。顧客が抱える業務課題を深く理解し、それを解決するプロダクトを届けること。個人のAI活用では、顧客への価値提供スピードを「組織として」上げるには不十分です。一部のチームの開発スピードが上がっても、全体が変わらなければ、顧客が受け取る価値の差分は限定的です。だからAI活用を「組織の標準」にする必要があります。 AI活用が進んでいるチームを観察すると、スキルや知識だけでなく「どの工程で・どんなインプットを渡せばAIが機能するか」という設計が体に染み込んでいます。これは情報共有だけでは伝わりません。型化の優先順位は「顧客価値に最も直結する工程」から決めています。 以下の4つの取り組みを通じて、全商材で高速かつ高品質な開発プロセスを再現性のある形で確立していきます。 ① AI駆動開発手法の標準化 設計・実装・レビュー・テストで、なるべくエンジニアの介入が要らないAI活用の「型」を統一します。成果が出ているチームの事例を収集済み。仕様駆動開発の型化が進行中。 ② 商材特性に応じた最適化 各工程でのAI駆動開発を磨き込み、より精度の高いAIワークフローを実現します。商材・技術特性に応じて使い方を順次アップデートしていきます。 ③ ナレッジの体系化・横展開 成功・失敗を含む実務レベルの知見をガイド化し、誰でもアクセス可能な形で集約します。キャッチアップの土台を整備し、勉強会支援や情報共有の場も整えていきます。 直近のハンズオン会アンケートでは、「他チームとの密接な情報共有がほしい」という声が50%に上り、事前に最多と予想されていた「技術的なトレーニングやワークショップが必要」と同数でした。知識を増やすことと同じくらい、「隣のチームが何をしているか」を知ることが求められています。 ④ AI活用の浸透度・生産性の可視化 「測れないものは改善できない」という考えから、AI活用の推進状況を可視化する仕組みを整備しました。開発・インフラ・QA・PdM・PDを対象に、各工程でのAI活用状況を定義した「AI活用実践カタログ」です。定性的な「なんとなく進んでいる」から、「ここが遅れている、だから次はこうする」という定量的な議論への転換を目指しています。 一部のチームでは、エンジニアが設計に集中している間にAIが実装を進める状態が見えてきています。非稼働時間帯も開発が動く。そのゴールの射程が、ようやくリアルになってきました。 ただ正直に言うと、型が定まっていない領域はまだ多く、ナレッジの体系化も道半ばです。それでも「組織全体にどう行き渡らせるか」という問いに正面から向き合えるタイミングになってきた、と感じています。 この取り組みについて、もう少し詳しく聞いてみたいという方には、7月15日(水)開催のオンラインイベントの視聴をご検討ください。CTOや執行役員をはじめ複数のエンジニアが、複数プロダクト組織でのAIネイティブ化の実践をリアルに語る場です。無料・オンラインで参加できます。
まず「測る」ことを設計した
「使わない」には、それぞれの理由があった
エンジニア文化特有の謙遜として、「AIちょっとできます」と名乗ること自体への抵抗感がある。「使っている」と言うのが気恥ずかしく、結果として使っていないように見えてしまう人が一定数いた。
AIを入れると今まで動いていたコードがずれてしまい、テストの修正コストが上回る。「わざわざAIに作り直させると余計に手間が増える」と感じている人がいた。
高負荷な業務を抱えながら、AIを自分の業務にフィットさせる時間が取れない。「失敗したらまた手直しもしなきゃいけない。片手間でなんとかするのは難しい」という声もあった。
AIとやりとりすること自体はしている。でも、実際の開発のどの場面でどう使えばいいかイメージが持てず、業務への組み込みは試せていない。気づけば「使っていない人」になっていた。AI活用は確かに進んだ。でも、浸透しきってはいない
顧客に届けるための、AI活用標準化
今期進める4つの取り組み
「エンジニア非稼働時間帯でも開発が進む」を目指して
