はじめに
はじめまして、楽楽精算のサポートエンジニアを担当している梅田です。私たちのチームは、お客様がサービス利用におけるお困り事を解決できるよう、エンジニアの立場からサポートを行っています。本記事では、生成AIを活用して問い合わせ対応業務を効率化し、回答までにかかる時間を75%削減した取り組み、具体的な活用方法や効果、AI活用のポイントをお伝えします。
サポートエンジニアの概要
サポートエンジニアの主な業務の1つはお客様からの問い合わせ対応です。基本的には、お客様からの問い合わせはカスタマーサクセスで回答をしています。ただし、技術的な内容などについてはカスタマーサクセスからエンジニアへエスカレーションが上がってきます。サポートエンジニアは、このカスタマーサクセスから上がってきたお客様からの問い合わせのエスカレーション対応を行っております。
サポートエンジニアの役割
サポートエンジニアがエスカレーション対応を通じて担当している役割は、ITサービスマネジメントのベストプラクティスであるITILのフレームワークに基づいて、以下の3つに分類できます。
サービスデスク
サービスデスクの目的は、問い合わせや問題報告に迅速に対応して、お客様にサービスを継続利用いただけるようにすることです。ラクスの開発本部では顧客視点を重要視しています。問い合わせ対応を迅速に対応することで、お客様が楽楽精算を利用して経理業務を円滑に実施いただけるようになるので、顧客視点の面からも重要な役割となります。
サポートエンジニアは、お客様からの問い合わせに対し、カスタマーサクセスからエスカレーションされた技術的な問題に対する初期調査を担当しています。ソースコードレベルでの解析が必要な場面などでは開発チームと連携し、早急に対応して、お客様がサービスを継続利用できるようサポートしています。
問題管理
問題管理の目的は、繰り返し発生するシステムの問題を特定し、その根本原因を解決することです。サポートエンジニアは、暫定対応が完了した問い合わせに対して、恒久対応の実施可否や対応時期について開発チームと連携し、対応を調整を行います。恒久的な対応が適切なタイミングで実施され、お客様の問題が解決されることでシステムが安定し、お客様が安心してサービスを利用できるようサポートしています。
リリース管理
リリース管理の目的は、計画的かつ円滑な機能リリースを行うことにより、新規または変更されたサービスをお客様が問題なく利用できるようにすることです。サポートエンジニアは、リリースプロセス全体の調整や管理、特にリリースに向けた準備やテストの実施、リリース後のシステム動作確認を担当しています。リリースが計画した通りに行われることで、お客様へ新しい機能や改善が円滑にリリースされ、お客様の業務がより効率的に進められるようサポートしています。
サポートエンジニアの連携先
「サポートエンジニアの役割」の中でも登場しておりますが、サポートエンジニアはお客様へ安心して利用できるサービスを提供し続けるために下記をはじめとするチームと連携しています。
サポートエンジニアの課題
現状サポートエンジニアは少人数でカスタマーサクセスからの問い合わせに対応しており、迅速な回答ができていない時が発生していました。
問い合わせ対応における問題
楽楽精算の利用社数が増える中で、当初想定しきれなかったカスタマイズをしてご利用いただくケースも増えてきました。カスタマーサクセスからエスカレーションされた内容について高度な調査が必要になる場面も増えてきて、以下のような問題が出てきました。
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迅速な対応の難しさ
カスタマーサクセスからの問い合わせや緊急の問題報告に対して、問い合わせの内容によっては調査や暫定的な解決策の提供に時間がかかることがあります。 -
スパイク的な問い合わせ対応
スパイク的に問い合わせが重なる場合、サポートエンジニアの対応が追いつかなくなることがあります。
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一貫した対応品質の維持
問い合わせごとに適切な対応を行うためには、過去の事例やナレッジベースを参照する必要がありますが、手動での検索や分析には限界があります。
問い合わせ対応における課題
問い合わせ対応の問題を見直したところ、主に問い合わせ対応の調査で手動作業や解析に時間がかかっていることが課題だとわかりました。
サポート業務改善に生成AIの導入
これらの作業を効率化することで課題解決できると考え、生成AI導入を決めました。
改善に生成AIを選定した理由
前述のように課題解決のために生成AI導入を決めましたが、選定理由を正直に言えば、ChatGPTのような生成AIが持つ革新性に強く惹かれたからです。ChatGPTに初めて触れた際、生成AIが質問に対して即座に的確な回答をするだけでなく、関連する知識や背景情報を自然な対話形式で提供してくれる点に非常に感銘を受け、単なる情報提供を超えた可能性を秘めていると感じました。また、エンジニアとして新しい技術に触れ、その可能性を試したいという思いがありました。加えて、ラクスの行動指針であるリーダーシッププリンシプル「小さく試して大きく育てる」に基づき、まずは問い合わせ対応に適用し、成功すれば他の領域にも展開できると考えました。
生成AIを使った問い合わせの効率化
サポートエンジニアの業務に生成AIを導入することで、問い合わせの効率化を実現しました。サポートエンジニアが問い合わせの効率化を計画し、どのような工夫で生成AIを活用し、成果を出すことが出来たのかを説明いたします。
計画
現状(図:GPTsを使う前の問い合わせ対応)の問い合わせ課題を解決するためにChatGPTのGPTsを活用する計画を立てました。GPTsは、自然言語処理(NLP)技術を利用してユーザーからの問い合わせを解析し、適切な回答を生成する機能を持っているため、カスタマーサクセスからサポートエンジニアへのエスカレーション後に行う調査時間を短縮するのに最適であると判断したためです。
- 現状の問い合わせ対応における課題
- 迅速な対応の難しさ
- スパイク的な問い合わせ対応
- 一貫した対応品質の維持
工夫
計画に基づき、GPTsを活用したカスタマーサクセスからサポートエンジニアへのエスカレーション後に行う調査を自動化しました。この調査の自動化を効果的に行うため以下のような工夫を実施しました。
- 複数視点の導入
回答精度を向上させるため、AIに複数の視点を持たせる手法を導入しました。AIが異なる観点から分析を行わせることが狙いです。実際にAIの中で議論を重ねることで、最適な回答を導き出すことができ、精度の高い回答が得られるようになりました。 - GoogleDriveAPIによる学習
GPTsにはファイルをアップロードして、追加で知識を学習させる「knowledge」機能がありますが、この機能にはファイル数やファイルごとの容量に制限があります。ChatGPTをGoogle Driveと連携し、指定フォルダ内のドキュメントを参照させることで、楽楽精算の仕様やマニュアル、過去の問い合わせナレッジに基づいた回答が得られるようになりました。 - GPTsへの学習を自動化
調査結果の精度を持続的に向上させるため、過去の問い合わせデータやナレッジベースを整理し、データのクロールと学習プロセスを自動化しました。これにより、GPTsは継続的に新しい情報を学習し、検索精度と解析能力を向上させています。
成果
GPTs機能を活用することで、サポートエンジニアの問い合わせ対応業務の効率化(図:GPTs導入後の問い合わせ対応)が実現できました。
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迅速な対応と問い合わせ対応の効率化
関連する過去事例や情報を迅速に検索・参照できるようになり、とある対応では従来よりも調査にかかる対応時間が75%削減できました。 - 対応品質の向上とエスカレーション件数の削減
GPTsを活用することで、問い合わせ内容を複数の視点から解析できるようになり、ある種の問い合わせ対応においては一貫して高品質な対応が可能になり開発チームへのエスカレーション件数が50%削減できた結果、開発チームの負担も軽減できました。 -
スパイク的な問い合わせ対応の平準化
サポートエンジニアの調査時間の削減と開発チームへのエスカレーション件数が削減できたことで、スパイク的な問い合わせにも効果的に対応できるようになり、問い合わせ対応の滞りを減少させることができました。
更なる改善
サポート業務への生成AI導入は初期段階として上々の成果を上げました。これですべての課題が解決できたわけではなく、まだ改善の余地が残っています。今回は問い合わせ対応にGPTs機能を使用しましたが、今後は他の業務にもGPTsを活用してさらなるお客様へのサービス品質向上を目指していきたいと考えています。