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カレーの材料集めで読み解くSaaS戦略 ──「スーパー」か「こだわりの専門店」か

こんにちは、プロダクト部 部長の稲垣です。(自己紹介やこれまでのキャリアについて↓をご覧ください。) tech-blog.rakus.co.jp

これまで組織やマネジメントについて書くことが多かったので、今回はプロダクトマネージャーらしく「プロダクト戦略」について書こうと思います。

ラクスに入社して約4年半。マルチプロダクト展開をしているtoB SaaS企業に入社し、これまでPdMのマネージャーとして複数のプロダクトに携わってきました。自社や競合、市場(国内・海外)を見ていく中で、私なりの理解や整理を言語化していこうと思います。

まだ、業界歴4年と浅く、多分に私自身の解釈が入っているため、一般的な理解との差分があるかもしれませんが、その点はご理解ください。そして本記事の一番の目的は、当社ラクスに興味を持っていただいているプロダクトマネージャー、デザイナー、エンジニアの皆さまにとって、ラクスへの理解を深める一助となればと思います。

※本記事は、公開情報を踏まえた私個人としての理解と将来的な妄想も含んでいます

目次

■プロダクトを取り巻く3つの課題

1.戦略

ラクスは「マルチプロダクト戦略」をとっています。

この戦略は、多くの企業が採用してきた王道の戦略であると理解しています。一方で昨今、Rippling(米国の急成長SaaS)などが提唱する新しいスタイルとして、「コンパウンド戦略」という考え方が登場しています。

blog.allstarsaas.com

これは、「創業時から複数のプロダクトを同時に展開し、共通の基盤やデータ、UX(ユーザー体験)で連携させることで、顧客の複合的な課題を一気に解決し、市場での競争優位性を高める戦略」を指します。

国内でも、この戦略を採用する企業が増えています。

それぞれのプロダクトづくりの観点で比較すると、以下のようになります。

そして、ラクスは「ベスト・オブ・ブリード戦略」も取っています。この名称、自分がラクスの特徴を紹介する時にも使っています。耳馴染みのない言葉だと思います、自分もラクスに入社して初めて知りました。

「特定のドメイン領域の課題に特化し、お客様のペインを解消する戦略」と理解してもらえればと思います。

この言葉は、情報システム部門の方が社内ツールを導入する際に、どのような戦略を取るかを語る文脈でよく使われます。対比される戦略としては、「スイート戦略」があります。

両者を比較すると、以下のようになります。

ここまでを整理すると、ラクスは「マルチプロダクト戦略」「ベスト・オブ・ブリード戦略」を取っています。これまでの比較表をご覧いただくと分かるとおり、それぞれをお客様視点で見た場合、以下のような課題があります。

■ マルチプロダクト戦略
  • プロダクトごとにUXが異なり、学習コストが高くなりやすい
■ ベスト・オブ・ブリード戦略
  • ツールごとにデータが分断されがちで、API連携やiPaaSなどによるつなぎ込みが必要になる

  • ツールごとに操作感が異なるため、ユーザーが慣れるまでに時間がかかる場合がある

  • 複数ベンダーとの契約が必要となり、更新時期やID管理が複雑になりやすい

2.ターゲットとポジショニング

日本国内のIT投資に関する調査を見ると、以下のような傾向があります。

  • 国内のIT投資額の約80%はエンタープライズ企業によるもの

  • 国内のIT支出の成長率は、エンタープライズが約+8%(SMBは約+6%)

  • 従業員1,000名以上の企業数は、国内で数千社程度にとどまっている

これらを踏まえると、日本のIT投資市場は概ね次のような構造になっていると言えます。

3.国内の社会情勢

2030年には、以下のような状況が予測されています。

  • 人口の3人に1人が高齢者

    国民の約31.8%が65歳以上になります。

  • 働く人の減少

    生産年齢人口(15〜64歳)がさらに減少し、多くの産業で人手不足が深刻化します。推計では、2030年には約644万人の人手不足が発生すると言われています。

■プロダクト戦略

ここまで、3つの課題について整理してきました。ラクスでは、これら3つの課題を解決していくために、現在、そして次期中期経営計画において、これまでのプロダクト戦略を大きく進化させていきます。

その方針は、以下のようなイメージです。

以下は「2026年3月期 第2四半期決算説明資料」になります。

■「カレーの材料」で読み解くプロダクト戦略

ここまで、当社のプロダクトを取り巻く課題と戦略について、できるだけ分かりやすく整理してきました。ここからは、さらにイメージしやすくするために、身近なシチュエーションに置き換えつつAIに作成してもらった画像を使って説明していきます。

テーマは、

「今夜の夕食(カレー)の材料を、どうやって買い揃えるか?」

で考えてみてください。

●こだわりの専門店 :ベスト・オブ・ブリード型戦略

① スイート型戦略(=巨大スーパー)
  • イメージ: 巨大なスーパーマーケットに行き、野菜、肉、スパイスを一つのカートに入れて、レジでまとめて買うスタイル。

  • メリット: とにかく楽です。移動も会計も一回で済みます。

  • デメリット: 「お肉はもっと上質なものがいいのに、ここには普通のしか売っていない…」というように、個々の品質に妥協が必要な場合があります。

② ベスト・オブ・ブリード型戦略(=こだわりの専門店)
  • イメージ: 街を巡り、「野菜はあの八百屋」「肉はあの老舗精肉店」と、それぞれのプロがいる専門店で最高の一品を買い集めるスタイル。

  • メリット: 出来上がるカレー(業務効率)は最高品質になります。現場の社員が「使いやすい!」と感動するのはこちらです。

  • デメリット: 3つのお店を回って、3回会計をする必要があります。導入や管理の手間がかかります。

私たちはこれまで、後者の「専門店スタイル」を貫いてきました。 なぜなら、日本のバックオフィス業務(経費精算、メール配信、明細発行など)は非常に細かく、「スーパーの標準品」では現場の不満が解消できないからです。

「経費精算の領収書チェックが面倒くさい」 「インボイス制度に対応した細かい処理がしたい」

こうした現場の深い悩み(ペイン)を解決するには、汎用的なツールではなく、その業務に特化した「切れ味鋭い専門ツール」が必要でした。だからこそ、「楽楽精算」や「楽楽明細」といった専門店(プロダクト)を磨き上げてきたのです。

ただ、これにも「1.戦略」で紹介したような課題があります。そこで私たちが目指すのが、「進化した専門店街・マルシェ」(統合ベスト・オブ・ブリード型)への進化です。

●進化した専門店街・マルシェ :統合ベスト・オブ・ブリード型戦略

「専門店の品質はそのままに、裏側で手をつなぐ」

これは、巨大スーパーマーケット(スイート型)に戻るということではありません。 「専門店の最高品質」は維持したまま、「バラバラで不便」という弱点だけを解消するアプローチです。

イメージしてください。 「八百屋」と「精肉店」と「スパイス屋」が、実は裏口で繋がっていて、お互いに連絡を取り合っている状態です。

  • お客様にとって: 最高品質の材料(機能)が手に入るのに、まるで一つの店で買い物をしているかのように、データ連携やセキュリティ管理がスムーズに行えます。これを実現できると『ベスト・オブ・ブリード型』でありながら『スイート型』のようなメリットをお客様に提供することができます。

また、「2. ターゲットとポジショニング」で挙げた課題である「エンタープライズ領域をより強化する」ことにも、大きく貢献できるポテンシャルを秘めています。

エンタープライズ企業には、創業以来使い続けている巨大な基幹システムや、複雑な組織構造があります。そこにバラバラの「専門店」を持ち込むと、「データのつなぎ込みが大変」「管理が煩雑になる」といった壁に直面します。

一方で、「スイート型」では、大企業の多様なニーズに応えることが難しくなるケースもあります。

「統合ベスト・オブ・ブリード型」であれば、すべて当社ラクスの製品を使ってもらうのが理想ではありますが、そうでない場合でも、お客様は別の製品(別の専門店)を併用することが可能です。

これが、当社ラクスが挑戦している「統合ベスト・オブ・ブリード型」の考え方です。

●お買い物サポート・代行サービス:AI戦略

これと並行して取り組んでいるのがAIの活用です

① 各プロダクト内のAI化(=超優秀な専門スタッフ)

まずは、それぞれの「専門店」の中に、AIを搭載します。 これは、「その道のプロである、超優秀なスタッフ」を雇うようなものです。

  • 経費精算のAIスタッフ: 領収書をパシャっと撮るだけで、「これは交際費ですね」「金額はこれですね」と、面倒な入力を全て代行してくれます。

  • 問い合わせ管理のAIスタッフ: お客様からのメールを読んで、「この件なら、こういう返信案が良いですよ」と自動で下書きを作ってくれます。

これにより、各業務の「面倒くさい」が徹底的に削減されます。

② プロダクトをつなぐ「AIエージェント」(=自律して走る連携役)

そして次に目指すのが、この専門店同士をつなぐ「AIエージェント」の開発です。 これが、統合ベスト・オブ・ブリード戦略の真骨頂です。

これまでは、人が「経費精算のデータをダウンロードして、会計システムにアップロードする」といった作業をしていました。 これからは、AIエージェントが自律的に動き、ツール間を走り回ります。

  • シーン: 「楽楽精算」で交通費が確定した瞬間、AIエージェントがそれを検知します。 ↓ AIエージェントが勝手に「楽楽販売」の担当AIに連絡します。 ↓ 「この交通費はA社への訪問分だから、A社の原価データに紐付けておきますね」

このように、人が指示しなくても、AIエージェント同士が会話をして、裏側で業務を完結させてしまう。 大企業の複雑な業務フローであっても、AIエージェントが潤滑油となって、システム全体を滑らかに動かしていくのです。

●スマートシティ・ビジネスエコシステム (妄想)

ここからは、私の妄想ですが

  • 進化した専門店街・マルシェ(統合ベスト・オブ・ブリード型戦略)

  • お買い物サポート・代行サービス(AI戦略)

といった取り組みをここまで実現できた暁には、以下のような世界が実現できるのではないかと考えています。

もはや、個人や家族のためのカレーではなく、街全体の人々に対して、一人ひとりの好みに合わせたカレーを、好きなときに供給できる

そんな未来が来るといいな、と思っています。

●専属シェフと万能翻訳機 (余談)

「統合ベスト・オブ・ブリード型」は、エンタープライズ企業にも寄与できる可能性があると前段で述べましたが、おそらくそれだけでは十分ではないとも感じています。

大企業には、何十年もかけて継ぎ足されてきた

  • レガシーシステム(巨大な冷蔵庫)

  • 複雑な社内政治(キッチンのルール)

が存在しているからです。

こうした「壁」を突破するために、昨今では新たな武器を持つ企業が現れ始めています。ここでは、その話にも触れていこうと思います。

昨年から、アメリカのPalantir(米国発の急成長AI/データ分析企業)が注目を集めています。彼らが実際に取り組んでいる内容については、こちらをご覧ください。

submarine-c.com

note.com

ここからは私なりの理解での内容となります。

武器①:FDE(Forward Deployed Engineer) 〜お客様の懐に入り込む「専属シェフ」〜

一つ目は、FDEという特別なエンジニア部隊の投入です。大企業への導入は、ただソフトを渡して「あとは説明書を読んでね」では成功しません。 FDEは、お客様の現場の最前線(Forward)に配備(Deployed)されます。

彼らは、お客様の複雑なデータ構造や業務フローを解析し、「お客様専用のつなぎこみ」をその場で調理します。

「データが汚くてつながらないなら、私たちが整備します」 そう言って泥臭い課題を技術で解決する、FDEのようなプロフェッショナル集団が、導入を成功に導きます。

武器②:オントロジー思考の中間システム 〜システムをつなぐ「万能翻訳機」〜

二つ目は、技術的なアプローチである「オントロジー(概念モデル)」の活用です。

大企業の基幹システムと、最新のSaaSを直接つなごうとすると、言葉が通じずにスパゲッティのように絡まってしまいます。 そこで私たちは、間に「中間システム(オントロジー層)」を構築します。

  • 役割: 基幹システムが話す「古い独自言語」を、一度この中間システムが受け取り、「誰でもわかる共通言語(オントロジー)」に翻訳します。AIエージェントたちは、この整理された言葉だけを見て仕事をします。

これにより、大企業の重厚な基幹システムには指一本触れずに、最新のAIエージェントたちが走り回る環境を作ることができるのです。

■ まとめ

ここまで、ラクスのプロダクトを取り巻く課題と今後の戦略、そしてそれをかみ砕いた内容に加え、後半ではやや妄想や余談も交えながらまとめてきました。いかがでしたでしょうか。

この記事を読む前よりも、ラクスのプロダクトを取り巻く環境や、私たちがどんな未来を目指しているのかについて、少しでも理解が深まっていれば嬉しいです。

非常にチャレンジングではありますが、だからこそ取り組む価値のあるテーマであり、今後のラクスの成長、そして日本の業務を前に進めることにつながる挑戦だと考えています。

もしこの記事を読んで、

  • プロダクト戦略を本気で考えたい

  • 複雑な課題に向き合いながら、長期的な価値をつくりたい

PdM、デザイナー、エンジニアとしてプロダクトづくりに深く関わりたい

と感じていただけたなら、ぜひこちらもご覧ください。

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一緒にこの挑戦を進めていける仲間と出会えることを、楽しみにしています。

デザイナー/PdM の方 は、ぜひカジュアル面談からご応募ください。※プロダクトマネージャーのカジュアル面談は、基本的に私が担当します!

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