
自己紹介
ラクスでPdMをしております。@keeeey_m
と申します。
現在の担当商材は、楽楽シリーズ(楽楽精算、楽楽明細、楽楽電子保存、楽楽債権管理)を担当しており、個人としては楽楽精算×AIの担当、楽楽明細・楽楽電子保存・楽楽債権管理PdMチームのリーダーをしております。
はじめに
前回までの記事では、ジョブ理論とノーススターメトリックそれぞれの重要性について詳しく解説しました。第1回では顧客の真のニーズを理解する鍵としてのジョブ理論、第2回では組織全体の方向性を統一する鍵としてのノーススターメトリックについてお伝えしました。
しかし、これらを単独で活用するだけでは、真の事業成長を実現することは困難です。本記事では、ジョブ理論とノーススターメトリックを組み合わせることで生まれる相乗効果についてまとめました。
相互補完的な関係
単独での限界
ジョブ理論とノーススターメトリックは、それぞれ単独でも価値のあるフレームワークですが、単独で活用する場合には限界があります。
ジョブ理論単独の限界
- 顧客の真のニーズを理解できても、組織全体で追求しにくい
- 定性的な洞察を定量的な指標に変換しにくい
- 組織全体の方向性統一が困難
- ビジネス成果への結びつきが曖昧
ノーススターメトリック単独の限界
- 表面的な数値に留まるリスク
- 顧客の真のニーズを深く理解できていない
- 指標設定の根拠が曖昧
- 短期的な改善に終始する可能性
相互補完的な役割
ジョブ理論とノーススターメトリックは、プロダクト開発の成功において互いを補完し合う、不可欠なフレームワークです。
ジョブ理論の役割
- 顧客の真のニーズ、つまり「片付けたいジョブ」を定性的に深く理解
- プロダクトが提供すべき「顧客価値」の核心を明確化
- イノベーションの方向性を指し示す
ノーススターメトリックの役割
- 明確化された顧客価値を定量的に測定
- 組織全体をその目標達成に向けてアライン
- 継続的な改善の指針を提供
相乗効果のメカニズム
因果連鎖の構築
両者を連携させることで、単独で適用する以上の相乗効果が生まれます。
因果連鎖
- ジョブ理論で顧客の真の課題と価値を特定(定性的フレームワーク)
- 適切なNSMを選定(その価値提供を定量的に測る顧客中心の先行指標)
- 組織全体がNSMに集中
- 持続的なビジネス成長が実現
相互依存関係
ジョブ理論とノーススターメトリックは、相互依存的な関係にあります。
- ジョブ理論がなければNSMは表面的な数値に留まる
- NSMがなければジョブ理論の深い洞察はビジネス成果に結びつきにくい
- 両者が組み合わさることで、定性的な洞察と定量的な測定が統合される
具体的な相乗効果
1. より深い顧客理解
- ジョブ理論による顧客の真のニーズの理解
- NSMによる顧客価値の定量的測定
- 顧客の行動と価値の関係性の明確化
2. より効果的な指標設定
- ジョブ理論に基づいたNSMの選定
- 顧客価値を中心とした指標設計
- 長期的な成長につながる指標の設定
3. より強い組織アラインメント
- 顧客の真のニーズに基づいた組織目標の設定
- 全従業員の共通理解の促進
- 部門間連携の強化
市場変化への柔軟な対応
ジョブ理論による柔軟性
ジョブ理論を基盤とした企業は、市場の変化に柔軟に対応できます。NSMと組み合わせることで、この柔軟性を組織全体で活用できます。
柔軟性の源泉
1. ジョブ中心の視点
- 製品の寿命に縛られない
- 顧客の「ジョブ」の変化を捉える
- 新たな「ジョブ」の出現を発見
2. 継続的なイノベーション
- 既存製品の改善点を発見
- 全く新しい製品カテゴリを創出
- 顧客の未解決のジョブに焦点を当てる
3. 戦略的柔軟性
- 製品が衰退期に入っても、その背後にある「ジョブ」を解決する新たなソリューションを開発
- ビジネスの継続性を確保
- 長期的な成長軌道を維持
Netflixの事例
Netflixは、ジョブ理論とノーススターメトリックを組み合わせた成功事例として知られています。
不変のジョブ: 「質の高いエンターテイメントコンテンツを手軽に楽しむ」
| 時期 | ビジネスモデル | ノーススターメトリック |
|---|---|---|
| 初期 | DVDレンタルサービス | 月間レンタル数 |
| 中期 | ストリーミングサービス | 月間視聴時間 |
| 現在 | オリジナルコンテンツ制作 | 月間アクティブユーザー数 |
この事例から分かることは、顧客の「ジョブ」は時代を超えて存在し続ける一方で、それを測定するNSMは技術やビジネスモデルの変化に応じて進化するということです。
実際の取り組み事例:両者の組み合わせ効果
楽楽精算では、ジョブ理論とノーススターメトリックを組み合わせることで、単独では実現できない相乗効果を生み出す取り組みを開始しています。
両者の組み合わせによる実践
1. ジョブ理論による顧客理解
- 経費精算における顧客の真の「片付けたいジョブ」を深く理解
- 表面的な業務効率化ではなく、根本的な課題解決に焦点
2. NSMによる定量的測定
- 理解した顧客価値を「1社あたり申請から承認までの全作業時間」として定量的に測定
- 組織全体が統一された目標に向かって取り組む
3. 相乗効果の実現
- 定性的な顧客理解と定量的な測定が統合される
- 顧客の真のニーズに基づいた組織目標の設定
- 全従業員の共通理解の促進
取り組みの方向性
この組み合わせにより、楽楽精算では以下の相乗効果を目指して取り組みを進めています。
- 顧客にとっての価値: 真のニーズを満たすソリューションの提供
- 企業にとっての価値: 持続的な成長と競争優位性の確立
- 組織にとっての価値: 部門間連携の強化と効率的なリソース配分
ロードマップ作成への貢献
ジョブ理論で顧客の真のニーズを理解し、それをNSMとして定量的に測定することで、組織全体が統一された方向性で効率的なロードマップを作成できるようになりました。これにより、短期的な機能追加ではなく、顧客価値の向上に焦点を当てた持続的な成長戦略を実現に取り組んでいます。
顧客と企業双方にとっての持続的価値創造
顧客にとっての価値
ジョブ理論とノーススターメトリックの導入により、顧客にとっての価値が最大化されます。
顧客にとっての価値
- 真のニーズを満たすソリューションの提供
- 機能的価値を超えた情緒的・社会的価値の享受
- 長期的な関係性と信頼の構築
- 生活の質の向上
企業にとっての価値
企業にとっても、両者の組み合わせにより大きな価値が生まれます。
企業にとっての価値
- 持続的な成長と収益の確保
- 競争優位性の確立と維持
- 顧客ロイヤルティの向上
- イノベーション能力の強化
相互価値の創出
両者の組み合わせにより、顧客と企業双方にとっての持続的価値創造が実現できます。
相互価値の創出
- 顧客の成功が企業の成功につながる
- 企業の成長が顧客により多くの価値を提供
- 長期的なパートナーシップの構築
- 持続可能なビジネスモデルの確立
戦略的示唆と今後の展望
プロダクト開発のパラダイムシフト
ジョブ理論とノーススターメトリックの導入は、プロダクト開発におけるパラダイムシフトを意味します。
| 項目 | 従来のパラダイム | 新しいパラダイム |
|---|---|---|
| 開発アプローチ | 機能中心の開発 | ジョブ中心の開発 |
| 価値創造 | 短期的な売上追求 | 長期的な顧客価値創造 |
| 競争優位性 | 競合との機能競争 | 顧客の「ジョブ」解決能力による競争優位性 |
| 顧客理解 | 顧客の表面的な要求への対応 | 顧客の真のニーズへの深い理解 |
今後の展望
技術革新との融合
- AI・機械学習による顧客行動の深い理解
- データドリブンなジョブ特定
- リアルタイムでのNSM測定と改善
まとめ
ジョブ理論とノーススターメトリックの戦略的な導入と運用は、企業が顧客の真のパートナーとなり、変化の激しい市場において持続的な成長と競争優位性を確立するための、強力な武器となります。 現代の競争が激しい市場において、プロダクト開発の成功には、単独のフレームワークでは不十分です。ジョブ理論とノーススターメトリックを組み合わせることで、企業は
- 顧客の真のニーズを深く理解し、それを定量的に測定できる
- 組織全体が統一された方向性で顧客価値の向上に集中できる
- 短期的思考から脱却し、長期的な持続的価値創造を実現できる
この相乗効果により、企業は変化の激しい市場においても確実な成長軌道を確立し、競争優位性を維持することができます。技術革新との融合への配慮など、今後の展望においても、両者の組み合わせは、企業が持続的な価値創造を実現するための基盤として、ますます重要な役割を果たすことでしょう。