自己紹介
ラクスでPdMをしております。@keeeey_mと申します。
現在の担当商材は、楽楽シリーズ(楽楽精算、楽楽明細、楽楽電子保存、楽楽債権管理)を担当しており、個人としては楽楽精算×AIの担当、楽楽明細・楽楽電子保存・楽楽債権管理PdMチームのリーダーをしております。
はじめに
前回の記事では、ジョブ理論の重要性について詳しく解説しました。顧客の真の「ジョブ」を理解することの重要性と、それが企業にもたらす競争優位性についてお伝えしました。 しかし、顧客の真のニーズを理解したとしても、それを組織全体で効果的に追求していくためには、もう一つの重要な要素が必要です。それが「ノーススターメトリック(North Star Metric: NSM)」です。 本記事では、ノーススターメトリックの重要性と、組織全体の方向性を統一する鍵としての役割についてまとめてみました。
- 自己紹介
- はじめに
- 従来の指標設定の問題点
- ノーススターメトリックの本質的な価値
- 組織全体の目標統一と方向性の明確化
- KGI/KPIとの戦略的関係性
- 長期的価値創造のアプローチ
- 変化の激しい市場での成長軌道確立
- 実際の取り組み事例
- まとめ
従来の指標設定の問題点
多くの企業では、従来のKPI(Key Performance Indicator)やKGI(Key Goal Indicator)を設定して事業を推進しています。しかし、これらの指標には根本的な問題があります。
従来の指標の問題点
- 短期的な売上目標に囚われがち
- 顧客価値よりも事業価値に偏重
- 組織全体の方向性が統一されない
- 各部門が異なる指標を追求する結果、バラバラな方向に進む
短期的思考の罠
多くの企業が短期的な売上目標に囚われ、長期的な価値創造を見失いがちです。
短期的思考の問題
- プロダクト価値の向上が後回し
- 顧客に提供できる価値の総量が変わらない
- 一度成長が止まってからの立て直しに膨大な時間と労力が必要
- 持続的な競争優位性を失う
このような状況では、企業は「泥沼サイクル」に陥り、持続的な成長を実現することが困難になります。
楽楽精算での経験
楽楽精算では、AI活用の成果指標としてノーススターメトリックを設定することにしました。この導入のきっかけとなったのは、合議で機能仕様を決めていく中で、それぞれの役割において、第一想起するお客様が異なるという事象でした。特にラクスでは機能別組織体制を選択しているため、この事象がより顕著に表れていました。
職種による顧客の時間軸の違い
職種によって顧客と言われて第一想起する属性が異なります。営業部門やマーケティングは未検討・導入検討中の顧客、CSは導入準備中や運用中の顧客、企画部門や開発部門(開発・デザイナー)は未検討・導入検討中・導入準備中・運用中と現在から未来にかけての時間軸が分かれています。
顧客の属性と職種範囲
結果として生じた事象
顧客のペインの本質的な解決にて価値をもたらすのか、それともビジネス的に即効性のあるインパクトを求めているのか、この判断によって解決策が変わってきます。しかし、各部門が異なる指標を追求する結果、顧客像や達成したいことがバラバラになり、仕様決定に何度も苦労する経験をしました。
このような経験を通じて、全員と前提をそろえる指標が必要だと考えるきっかけとなり、ノーススターメトリックの導入を検討することになりました。
ノーススターメトリックの本質的な価値
顧客価値を起点とした先行指標としての役割
ノーススターメトリック(North Star Metric: NSM)は、プロダクトをより確実に成長させるための先行指標として設定されるものです。
NSMの定義
- 顧客へ提供する価値を明確に表し、かつ計測可能な指標
- 企業全体の正しい方向性を全部署が把握できる唯一無二の指標
- 北極星が地上のどこから見ても常に変わらない位置にあり、方向性を示すように機能
北極星の比喩が示す重要性
北極星は、地上のどこから見ても常に変わらない位置にあり、方向性を示す星として知られています。NSMも同様に、組織全体が目指すべき方向性を明確に示す指標として機能します。
北極星の特徴
- 常に一定の位置にある
- 誰から見ても同じ方向を示す
- 迷った時の指針となる
- 長期的な航海の道しるべ
NSMの特徴
- 顧客価値を中心とした指標
- 組織全体で共有できる
- 事業の方向性を明確にする
- 長期的な成長の指針となる
組織全体の目標統一と方向性の明確化
NSMの最大の価値
NSMの最大の価値は、組織全体の目標を統一し、方向性を明確にすることにあります。
組織統一の効果
- 企業全体が同じ目線で目標に向かう
- 全従業員、全部署での目標達成における意識の統一
- チーム間やメンバー間の連携の取りにくさを解消
- バラバラな方向への進行を防止
部門間の連携強化
従来の指標設定では、各部門が異なるKPIを追求する結果、組織全体としての方向性が曖昧になりがちでした。NSMの導入により、この問題を解決できます。
従来の問題
- 営業部門:売上目標
- 開発部門:機能リリース数
- マーケティング部門:リード獲得数
- カスタマーサクセス部門:解約率
NSM導入後の効果
- 全部門が顧客価値の向上に集中
- 部門間の連携が自然と生まれる
- 組織全体の効率性が向上
- 顧客にとっての価値が最大化
KGI/KPIとの戦略的関係性
指標の階層構造
NSMは、従来のKGI(Key Goal Indicator)やKPI(Key Performance Indicator)と密接に関連しつつも、異なる戦略的な位置づけを持ちます。
戦略的位置づけ
- NSMはKGIとKPIの間に設定される傾向
- KGIやKPIが経営視点の指標であるのに対し、NSMは顧客視点を取り入れた指標
- 事業の結果(売上など)に対して「先行指標」として設定
- NSMが適切に設定され、改善されることで、遅行指標である成果(売上や利益など)が自然と生まれる
3つのバランス
NSMは、以下の3つの要素のバランスを取った指標として機能します。
3つのバランス
- ビジョン: 企業が目指すべき未来像
- 顧客価値: 顧客に提供する価値
- 事業価値: 企業が得る価値
このバランスが取れた状態を目指すことで、プロダクトの成功に直結した指標として機能します。
長期的価値創造のアプローチ
短期的思考からの脱却
NSMの導入により、企業は短期的思考から脱却し、長期的なビジネス価値の実現を目指すことができます。
長期的価値創造のアプローチ
- 顧客の真の価値提供に焦点
- 顧客価値の向上を最優先
- 持続的なイノベーションの実現
- 長期的な顧客関係の構築
先行指標としての重要性
NSMは、事業の結果に対する「先行指標」として機能します。これは、NSMの改善が将来的な事業成果につながることを意味します。
先行指標の特徴
- 現在の行動が将来の結果に影響する
- 早期に問題を発見できる
- 改善の機会を早期に把握できる
- 長期的な成功の予測が可能
具体例
- NSM: 月間アクティブユーザー数(MAU)
- 結果: 売上・利益の向上
- 関係性: MAUの増加が売上向上につながる
変化の激しい市場での成長軌道確立
現代ビジネス環境の特徴
現代のビジネス環境は、技術革新の加速、市場のグローバル化、顧客ニーズの多様化により、かつてないほどの速さで変化しています。
市場環境の特徴
- 技術革新の加速
- 市場のグローバル化
- 顧客ニーズの多様化
- 競争の激化
NSMによる成長軌道確立
このような環境において、NSMは企業が確実な成長軌道を確立するための強力な武器となります。
成長軌道確立のメカニズム
1. 戦略的明確性
- 組織全体の方向性を明確化
- リソースの最適配分を実現
- 顧客価値の向上に集中
2. 実行効率性
- 無駄な開発を排除
- 本質的なKPI設定
- 組織全体のアラインメント
3. 継続的改善
- 顧客価値の向上を継続
- 市場の変化に対応
- イノベーションを加速
4. 競争優位性の維持
- 顧客価値の向上を継続
- 競合との差別化を維持
- 持続的な成長を実現
実際の取り組み事例
楽楽精算では、ジョブ理論で特定した顧客の真の「ジョブ」を基に、ノーススターメトリックを設定しました。
NSM設定の背景
楽楽精算のAI活用の方針は「経理業務の本質的な課題解決をするためにAIも活用する」ことです。もちろんAIの精度は大事ですが、それに加えAIを活用することで、お客様に本質的な価値を提供できていることを定量的に計測することで、早期に問題を発見し、改善の機会を把握できます。これにより全員が本質を見失うことなく取り組むこともできます。
具体的なNSM設定
ジョブ理論で特定した経費精算における顧客の真の「ジョブ」を基に、「1社あたり申請から承認までの全作業時間」をNSMの実行KPIの一つとして設定しました。プレスリリースでも「1社あたり申請から承認までの全作業時間の約60%削減を目指す」と宣言をしました。
組織統一の効果
このNSM設定により、開発部門、営業部門、CS部門など、全ての部門が「顧客の作業時間削減」という統一された目標を共通認識として持つことができました。
まとめ
ノーススターメトリックの導入により、企業は組織全体の方向性を統一し、顧客価値の向上に集中できるようになります。これにより、短期的思考から脱却し、長期的なビジネス価値の実現を目指すことができます。
NSM導入の効果
NSMの導入により、組織全体の目標が統一され、顧客価値の向上に集中できるようになります。これにより、長期的な成長軌道を確立し、競争優位性を維持することが可能になります。
成功の鍵
NSMの成功には、顧客価値を中心とした指標設定が不可欠です。組織全体での理解と実践を徹底し、継続的な改善サイクルを確立することで、長期的視点での取り組みが実現できます。
次回は、ジョブ理論とノーススターメトリックを組み合わせることで生まれる相乗効果について詳しく解説します。両者を連携させることで、単独で適用する以上の価値を生み出す方法についてお伝えします。