RAKUS Developers Blog | ラクス エンジニアブログ

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AIツールを活用したモバイル開発チームの生産性向上への取り組み

はじめに

私たちのモバイルアプリ(Android/iOS)開発チームでは、2024年頃から段階的にAIツールを導入し、開発プロセスの改善に取り組んできました。プロセス改善とチーム体制の強化も相まって、PR作成数などの指標で大幅な改善を実現しています。

本記事では、私たちがどのようにAIツールを活用して開発効率を向上させているか、具体的な取り組みをご紹介します。

生成AI活用の文化づくり

生成AI情報共有会の開催

私たちのチームでは「生成AI情報共有会」を隔週で開催しています。この会では以下のような内容を行っています。

  • 新しいAIツールの情報と使用感
  • 効果的なプロンプトエンジニアリングのテクニック
  • 実際の開発での成功事例と失敗事例
  • AIツール活用のベストプラクティス
  • ツールの使用方法デモ、ハンズオン

この定期的な情報共有によりチーム全体のAIリテラシーが向上し、新しいツールや手法の導入がスムーズになっています。

多様なAIツールの活用

現在チームでは以下のAIツールを利用可能な環境が整っており、メンバーそれぞれが利用したいツールを申請して利用している状態です。

  • Claude Code(メインツール:実装の40〜90%をAIで生成)
  • Cursor
  • GitHub Copilot
  • Devin
  • Codex
  • JetBrains AI
  • Gemini

タスクの性質や個人の好みに応じて、最適なツールを選択できる環境を整えることで、開発者それぞれが最も生産的に作業できるようになっています。

また弊社では上記ツール以外でも使いたいと言えば、費用面も含めて検討して下さる開発横断組織もあり、直近だとKiroも連絡して1日後には利用可能リストに入れて下さいました。 このように非常にスピーディに対応して頂けていることも、AIツール活用して生産性向上が出来ている一つの要因となっています。

独自MCPサーバーによる開発環境の革新

MCPとは

MCP(Model Context Protocol)は、AIツールに外部システムの情報を提供するためのプロトコルです。 私たちは開発効率を向上させるため、以下の独自MCPサーバーを開発・運用しています。

1. GoogleDrive MCP

機能

  • 要件定義書、設計書、テスト項目書の参照・更新
  • 文言一覧の読み取り(英語文言の自動反映など)

効果

ドキュメントとコードの整合性が向上し、仕様変更時の対応速度が大幅に改善しました。

2. Redmine MCP

機能

  • Redmineの情報取得、更新の自動化

効果

チケット管理の効率化により、開発者がタスク管理に費やす時間を削減できました。

3. 検証環境 MCP

機能

  • SQL自動実行による環境設定変更
  • テスト時の手動設定時間の削減

効果

環境構築やテストデータの準備にかかる時間が大幅に短縮されました。

4. GitHub PR/Issue MCP

機能

  • PR自動作成
  • コードレビューの支援
  • バックログ作成の効率化
  • AIへのコンテキスト提供

効果

PR作成からレビューまでの一連のプロセスが効率化され、開発サイクルが高速化しました。

5. Figma MCP

機能

  • デザインデータの読み取り
  • AIへのコンテキスト提供

効果

デザインと実装の乖離が減少し、UIの実装精度が向上しました。

6. ファイル編集 MCP

機能

  • Claude Codeのファイル編集速度の改善

効果

大規模なリファクタリングや複数ファイルの同時編集が高速化されました。

具体的な活用事例

開発プロセス全体での活用

私たちのチームでは以下のような場面でAIツールとMCPを活用しています。

1. プルリクエスト(PR)作成

  • コミット内容からPRの説明文を自動生成
  • 変更内容の要約と影響範囲の明記

2. コードレビュー

  • コード差分、PRコメント、影響範囲コードを総合的に分析してフィードバック
  • 潜在的な問題点の事前検出

3. テスト自動化

  • テスト環境でのSQL実行とcurlを組み合わせた自動テスト
  • 手動テストの工数削減

4. その他の活用場面

  • 脆弱性診断対応
  • ソースコード、DB定義の検索
  • Obsidianを使用した情報の記録、検索
  • マージ済みPRのレビューコメント分析
  • 片手間で新機能PoC作成
  • 要件定義からPBI(Product Backlog Item)作成
  • 実装時のコンテキスト収集(Issue、Figma、Google Drive)

ナレッジの蓄積と共有

実装ナレッジの再利用・形式知化

  • AIとのチャット履歴から有益な情報を抽出
    • 良かった点をMarpでスライド化して共有
    • アプリ開発用ハンドブックへの記載
  • AI駆動開発のワークフロー作成

導入効果の測定

PR作成数の推移(1日あたり)

AI導入段階 iOSアプリ Androidアプリ
AI導入前 0.346 0.221
ChatGPT 0.313 0.487
Copilot(サジェストのみ) 0.638 0.576
Copilot(Edits/Agent)※2月 0.737 0.842
Cursor※4月 1.313 1.506
Claude Code※7月 3.059 2.235

※1〜2月頃にプロセス改善も実施、3月頃にiOSチームメンバーが1名増員しています。

CI実行回数の推移(2025年分 iOSのみ)

  • 1月:187回
  • 2月:144回
  • 3月:270回
  • 4月:245回
  • 5月:245回
  • 6月:310回
  • 7月:415回

これらの数値はAIツールの導入だけでなく、プロセス改善やチーム体制の強化も寄与した成果です。

取り組みの中での失敗

もちろんこれらの成果は一直線に得られたわけではありません。AIの出力が期待と異なったり、自動化が逆に非効率になったりと大小の失敗は常に経験しています。 小さな仮説検証を高速で回して常に失敗しているような状態ではありますが、チームが進化し続けている証だと考えています。

現在取り組んでいる課題

1. 処理速度の最適化

Claude Codeで時間がかかる部分の改善に取り組んでいます。特に大規模なコードベースでの処理速度向上が課題です。

2. 効果測定の精緻化

  • AIでのコード生成率の正確な計測
  • 各ツールのROI(投資対効果)の可視化
  • 品質指標との相関分析

3. 適用範囲の拡大

実装だけでなく設計フェーズへのAI活用を検討しています。要件定義から設計、実装、テストまでの一貫したAI支援の実現を目指しています。

まとめ

私たちのモバイルチームでは、AIツールの導入とプロセス改善を組み合わせることで、開発効率の大幅な向上を実現しました。特に独自開発したMCPサーバー群により、AIツールがプロジェクトの文脈を深く理解し、より精度の高い対応ができたり、手動作業を省力化できました。

重要なのはAIツールを単に導入するだけでなく、チームや組織の文化として定着させることです。定期的な情報共有会や独自ツールの開発により、チーム全体でAIを活用する文化が醸成されています。

今後も新しい技術やツールを積極的に取り入れながら、開発者がより創造的な作業に集中できる環境づくりを進めていきます。AIは開発者を置き換えるものではなく、開発者の能力を拡張するパートナーとして、私たちの開発プロセスに欠かせない存在となっています。

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