
こんにちは、プロダクト部 部長の稲垣です。(自己紹介やこれまでのキャリアについて↓をご覧ください。) tech-blog.rakus.co.jp
デザイナーとプロダクトマネージャー(PdM)が同じ組織になってもうすぐ1年が経ちますので、その挑戦、苦労、変化について書こうと思います。ラクスは3月末決算のため4月には来期に向けて取り組みを書こうと思いますが本記事は厚めに振り返ります。
- 組織図を書き換え、デザインを解放する
- なぜ統合が必要だったのか:「上流×一次情報×検証」が欠けると、協働は痩せていく
- デザインの再定義:それは「問題を解決するための設計」である
- 壁を壊すだけでは足りない:一次情報・意思決定・効果検証を「仕組み」にする
- プロセスの磨き込みが、思考の余白を生む(AIは黒子)
- PdMとデザイナーの共鳴:信頼が戦略を加速させる
- UX志向のガードレール:越境は「自由」ではなく「責任」
- リアルな壁:未経験の荒野と「固定観念」との戦い(アンケートで見えた“本質”)
- おわりに:各自が「+1」の越境を止めない
組織図を書き換え、デザインを解放する
「デザイナーとプロダクトマネージャー(PdM)を、同じ組織にする。」
この決断は、単なる管理上の変更ではありませんでした。 それは、プロダクト開発における「役割」という名の聖域を取り払い、全員が「ユーザー価値」という一点に向き合うための、静かな、けれど野心的な挑戦の始まりでした。
これまでのラクスの開発現場では、「仕様を作る人(PdM)」と「形にする人(デザイナー)」という分断が、あたかも効率的な分業であるかのように受け入れられてきました。 しかし、その境界線はときに、情報の劣化や責任の押し付け合いを生む「見えない壁」となって立ちはだかります。
この1年で私たちが目指したのは、デザインを「UI(見た目)を整える業務」から、「事業課題を解決するための設計・計画全般」へと解放すること。 その決断が、いかにしてプロダクトの質と、チームの魂を変えていったのか。今、私たちが感じている「統合の真の価値」を言語化してみたいと思います。
なぜ統合が必要だったのか:「上流×一次情報×検証」が欠けると、協働は痩せていく
先に結論を言うと、統合は“仲良くするため”ではありません。
プロダクト開発に必要な情報と責任が、上流から検証まで一本で繋がる状態をつくるためでした。
私たちが日々向き合うプロダクト開発は、不確実性の塊です。だからこそ、チームが手応えを感じる瞬間は、完成した成果物そのものよりも、
- 不確実性が下がった
- 意思決定が前に進んだ
- 手戻りや無駄が減った
- リリース後の反応が見えた
……といった「前に進んだ感覚」に宿ります。
逆に言えば、一次情報に触れられず、上流での仮説設計に関われず、リリース後の効果検証も回らない状態だと、仕事は“調整と吸収”に寄り、協働は痩せていく。 これは個人の能力の問題というより、フィードバック周期が長すぎる設計のサインでした。
だから私たちは、役割の境界線を越える前に、まず 「上流×一次情報×検証」を“チームの標準装備”にする方向へ舵を切りました。
デザインの再定義:それは「問題を解決するための設計」である
かつて、デザイナーの仕事の主戦場は「画面の中(UI)」でした。 しかし今、私たちの組織ではその定義が劇的に変わりつつあります。
デザインとは、ユーザーの深層にある痛みを見つけ出し、それを解決するための「設計・計画」そのものです。
この定義の変化を象徴するのが、デザイナーによる「UX領域への染み出し」です。 デザイナーが自らユーザーインタビューの場を設計し、実査を主導する。そこで得た生々しい一次情報をもとに、PdMと肩を並べて「この機能は本当にユーザーのためになるのか?」という本質的な議論を戦わせる。
デザイナーが「体験の責任者」として上流から関わることで、プロダクトの骨格は以前よりもずっと強固になりました。単に「使いやすい画面」を作るのではなく、「なぜそれを作るのか」という問いに対して、デザインの観点から明確な解を持つようになったのです。
そして何より、ここで重要なのは“美しい理想論”ではなく、顧客価値に直結する現実です。 インタビューで課題設定がズレていることが分かり、手戻りを未然に防げた。あるいは、現場の声を根拠に提案が通り、商談上の不安材料を消せた。そういう小さな勝利の積み重ねが、プロダクトの勝率を静かに上げていきました。
壁を壊すだけでは足りない:一次情報・意思決定・効果検証を「仕組み」にする
統合して気づいたのは、組織図を変えただけでは、人は簡単に変わらないということです。 必要なのは「気合」ではなく、情報と責任の流れを変える仕組みだと思っています。
私たちが意識して整えているのは、大きく3つです。
1) 一次情報を“取りに行く”のを、当たり前にする
顧客・営業・CS・現場の声は、伝言ゲームを経由した瞬間に痩せていきます。だからこそ、一次情報に触れることを「一部の職種の仕事」から、「チームの呼吸」へ。デザイナーもPdMも、必要なら自分で取りに行く。その姿勢をチームの文化として育てています。
2) 上流から入る(要求の背景と検討経緯を共有する)
「要求が遅い・曖昧」を開発側が吸収して納期を守る構造は、短期的には優しい。でも長期的には、品質・士気・優先順位付けを劣化させます。そこで、要求の背景(なぜ今これが必要なのか)や検討経緯(なぜこの案を選んだのか)を、できるだけチームに残す。意思決定の“証跡”を共有する。これだけで、同じ議論を何度も繰り返す無駄が減り、腹落ちの深さが変わっていきます。
3) リリース後の効果検証を“デフォルト”にする
作って終わりにしない。 KPIの推移だけでなく、VOCや現場の反応も含めて、どんな変化が起きたのかを回収し、次の意思決定に繋げる。 ここが回り始めると、チームは「前に進んだ感覚」を取り戻し、協働の質が一段上がります。(ここはまだまだできていないことが多い)
プロセスの磨き込みが、思考の余白を生む(AIは黒子)
もちろん、デザイナーが上流工程に染み出すためには、これまでの業務をどこかで効率化しなければなりません。そこで私たちは、制作プロセスに工夫を凝らそうとしています。
UI制作における細かなルーチンワークや共通パーツの管理、さらにはインタビュー後の膨大な文字起こしや情報の整理といった「作業」の部分に、最新のテクノロジーやAIを黒子として組み込もうとしています。 目的は、デザイナーを「作業」から解放し、その脳を「思考」へとシフトさせることです。
この実現のために「デザインガイドライン」の策定と浸透は重要な役割を担っています。(デザインガイドラインの苦労は以下のnoteをご覧ください)
浮いた時間で、デザイナーはユーザーの隣に座り、感情の機微を読み取る。そして、そのインサイトを戦略へと昇華させる。技術によって生み出された「余白」が、皮肉にも私たちの開発プロセスをより人間中心(ヒューマンセンタード)なものへと変えていければよいなと思います。
PdMとデザイナーの共鳴:信頼が戦略を加速させる
この体制が生んだ最大の資産は、PdMとデザイナーの間に生まれた「深い信頼の土壌」です。
デザイナーがUXの解像度を究極まで高め、現場をリードしてくれる。その確信があるからこそ、PdMは現場の細部をデザイナーに「預ける」ことができるように少しずつなってきています。
これはPdMにとって、単なるタスクの委譲ではありません。UXの重責をパートナーに託したことで、PdMは自身の専門領域である「プロダクト戦略」や「GTM(市場投入戦略)」など、事業成長に直結するマクロな動きに全神経を注げるようにするためです。
この「相互の越境」は、目に見える実績としても現れ始めています。
- 複数サービス利用推進の加速:デザイナーが横断組織になったことで、サービス間の垣根を超えたデザインガイドラインが浸透
- コミュニケーションの高速化:別組織ゆえの「合意形成のための儀式」が消え、価値を「ツクル→伝える」までのスピードが上がった
ここで大事なのは、スピードそのものではなく、スピードが生む“余白”です。余白があるから、仮説検証ができる。一次情報に触れられる。効果検証まで責任を持てる。結果として、プロダクトが「説明できる意思」を持ちはじめます。
UX志向のガードレール:越境は「自由」ではなく「責任」
一方で、越境は万能薬でもありません。 境界線を溶かすほど、意思決定が曖昧になったり、声の大きい人が勝ったりする危険もあります。だからこそ、私たちは「UX志向」を行動原則(ガードレール)として明文化し、何度もすり合わせました。たとえば、
- 製品の本質的価値から逆算して行動する
- 事実(ファクト)に基づき、仮説検証を繰り返す
- 提供したUXへのフィードバックを収集し、改善に繋げる
- 短期と中長期をORにせず、ANDで両立する道を探す
- ステークホルダーに敬意を払い、説明責任を果たす
そして同時に、「やらないこと」も決めます。憶測だけで決めない。フィードバックを放置しない。政治や保身を優先しない。 この“当たり前”を言語化しておくことで、越境は「自由」ではなく「責任」として機能し始めます。
リアルな壁:未経験の荒野と「固定観念」との戦い(アンケートで見えた“本質”)
しかし、理想ばかりを語るわけにはいきません。現在進行形の課題も山積みです。 まず、UXを深く担った経験のあるデザイナーはまだ少数派です。UIという安全圏を抜け出し、正解のない「戦略や設計」に踏み込むのは、想像以上に怖いし、体力も要ります。
ここで半期ごとに実施している「製品貢献実感」のアンケートが、壁の正体をはっきり映しました。貢献実感が強い瞬間は、成果物そのものよりも「前に進めた感覚」——認識齟齬を潰して手戻りを減らせた、意思決定が進んだ、リリース後の反応が見えた、といった場面に集まりやすい。逆に言うと、一次情報に触れられない/上流に入れない/効果検証まで見えない状態が続くほど、貢献実感は痩せていきます。これは個人の能力ではなく、フィードバック周期が長い(設計されていない)ことが原因になりがちです。
さらに厄介なのが固定観念です。「デザイナー=UIを作る人」「PdM=要望を捌く人」という見え方が残ると、一次情報や検証に踏み込もうとした瞬間に、善意の期待で引き戻されます——「いいから早く画面を」「まずは間に合わせて」。
だから私たちは、気合ではなく仕組みで解くことにしました。一次情報・意思決定の背景・効果検証を“標準装備”にし、小さくても「前に進んだ証拠」が返ってくるループを短く回す。固定観念は議論で倒すより、実績で上書きするほうが早い。未経験の荒野と戦う鍵は、個人の頑張りではなく「前進が可視化される設計」にあると感じています。
おわりに:各自が「+1」の越境を止めない
私たちが目指すのは、職能というラベルに縛られない、真のプロフェッショナル集団です。 デザイナーはより戦略的に、PdMはより体験に寄り添う。それぞれが自分の領域から「+1」の越境を続けることで、プロダクトには強い「意志」が宿ります。
組織図の壁を壊し、デザインを解放した先に見える景色。それは、作り手が誰よりもプロダクトの可能性を信じ、楽しみながら価値を生み出し続ける、そんな組織の姿です。私たちの挑戦は、まだ始まったばかりです。
記事を読んでラクスのプロダクト部に興味を持ってくださった デザイナー/PdM の方 は、ぜひカジュアル面談からご応募ください。
※プロダクトマネージャーのカジュアル面談は、基本的に私(稲垣)が担当します!
●採用情報 プロダクトマネージャー career-recruit.rakus.co.jp
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