
はじめに
こんにちは。楽楽精算のサポートエンジニアを担当している梅田です。
サポートエンジニアの役割は、楽楽精算の仕様や技術を理解するだけでなく、問い合わせ対応時に適切な調査を行い、開発チームやインフラチームと連携しながら迅速に解決策を導くことです。そのため、テスト技法や業務知識を学び、最新の技術動向を把握することが大切です。
ラクスでは「学習し成長し続ける」ことを行動指針のひとつとして掲げており、私たちサポートエンジニアもこの指針を大切にしています。 お客様により良いサポートを提供するためには、製品知識に加えて、技術や法制度の変化を理解し、常に最新の情報に対応していくことが不可欠です。
そこで、実務に役立つスキルを学び、サポートエンジニアチーム内や所属している課の単位で勉強会を開催・実施しています。本記事では、これらの勉強会の取り組みを通じて得られた成果をご紹介します。
- はじめに
- なぜ勉強会が必要なのか?
- 学習文化の醸成「勉強会のはじまりと進化」
- スキルアップとチームの成長を目指す「勉強会の目的と取り組み」
- 「3種の神器」でレベルアップ!サポートエンジニアの資格取得戦略
- 「学習し成長し続ける」ために
なぜ勉強会が必要なのか?
サポートエンジニアの業務では、技術調査や問い合わせ対応に加え、製品仕様や法制度の理解が欠かせません。しかし、新機能の追加や法改正のたびに、日々の業務だけで知識をすべて習得するのが難しいのが現実です。
学習の必要性を実感したお問い合わせエピソード
定時実行で生成されるファイルに、実行時間直前に作成したデータが含まれていないというお問い合わせがありました。
当初はデータが消失したのではないかと懸念しましたが、調査の結果、次回の定時実行には問題なく出力されることが確認できました。これは、システムの負荷を分散させるために処理タイミングを調整している設計によるもので、仕様どおりの動作でした。
もしシステムの設計を深く理解していれば、落ち着いて対応し、迅速に説明できたと感じました。
この経験を通じ、機能の仕様だけでなく、処理の仕組みや技術的な制約を深く理解し、お客様に的確に伝える力を磨く必要があると改めて認識しました。
学習文化の醸成「勉強会のはじまりと進化」
2022年度:1人勉強会(自己学習から)のミニマムスタート
サポートエンジニアチームの学習文化は、私自身の1人勉強会(自主学習)から始まりました。当時の私は、システムエンジニアとしての経験はあったものの、テスト設計や品質保証の視点が不足しており、お客様からの問い合わせに対し、システムのどの部分を検証すべきか、影響範囲をどのように調査すべきかを効率的に判断することが難しい状況でした。
そこで、上司からの勧めもあり、業務の幅を広げるためにテスト設計とソフトウェア品質の評価、ITサービスマネジメントという視点を体系的に学習することを決意しました。
JSTQB(ソフトウェアテスト技術者資格)を通じて、テスト設計の基礎やソフトウェアの品質を評価する視点を学びました。特に、「どのような観点で検証すれば、システムの品質を維持できるか」という考え方を学んだことで、問い合わせ対応の精度が向上しました。学んだ知識を活用することで、ログ分析や再現手順を整理し、調査をより明確に進めることができました。
また、ITIL(ITサービス運用資格)を学ぶことで、問い合わせ対応を単発の業務として終わらせず、継続的な改善につなげるという視点も得ることができました。学習の結果、問い合わせ内容を蓄積し、対応フローの最適化やドキュメント整備を進めることで、よりスムーズな対応ができるようになりました。
2023年度:チームの関心が高まり、継続的な学習文化へ
私が取り組んでいた自主学習に興味を持つメンバーが増え、有志のメンバーが集まり、少人数での勉強会が始まりました。この勉強会では、チームとしてJSTQB、ITIL、日商簿記(財務会計資格)、OSS-DB(データベース資格)、LinuC(Linux資格)などの取得を目的として幅広い分野を学習しました。
JSTQB・ITILの学習を通して、品質保証とITサービスマネジメントに関する知識を深め、問い合わせ対応の精度向上に貢献しました。
日商簿記の学習では、経理業務に関する理解を深め、運用に沿ったご案内や会計に関する適切なご説明ができるようになり、サポート品質の向上に繋がりました。
OSS-DB・LinuCの学習では、データベースやサーバーに関する知識を習得し、開発・インフラチームとの連携を円滑化し、技術的な問い合わせへの対応力を高めました。特に、OSS-DBの勉強会では、梅田以外のメンバーが発表者を務めることで、「教え合う」文化が生まれました。発表者を担当したメンバーは、人に伝えることで知識を深め、参加者も積極的に質問することで、相互理解を深めました。
2023年を通して、個人の学びがチーム全体の成長に繋がる学習環境が整い、資格取得のみならず、業務に直結する知識を学び、サポートの質を高める文化が根付きました。
2024年度:業務時間内の勉強会が本格化
2023年度までの取り組みが評価され、2024年度からは業務時間内での勉強会開催が本格化しました。これにより、資格取得を目的とした学習から、実務や自分たちのスキル成長に直結する勉強会へと発展しました。
勉強会開催の推移
この年に新たに取り組んだ勉強会のテーマには、次のようなものがあります。
なぜなぜ分析勉強会:問い合わせ対応時の問題を深掘りし、問題の本質に迫るなぜなぜ分析の手法を学びました。この勉強会を通じて、分析視点が身に付き、問題の本質を捉えた対応と問い合わせの迅速な回答、業務効率化に繋げることができました。
生成AIの活用事例紹介:生成AIを活用した問い合わせ対応の効率化や業務改善への応用方法を紹介しました。この勉強会を通じて、問い合わせ対応の効率化や業務改善に繋がる具体的なアイデアが得られました。(前回のブログ記事で活用事例として紹介しました)
経理実務勉強会:決算業務の流れを理解し、経費精算システム(楽楽精算)や会計システムとの連携について学習しました。この勉強会を通じて、経理業務全体の流れと、各システムがどのように連携しているかをメンバー全員が理解できました。
こうした実践的な学びを通じて、業務の効率化や品質向上につながる知識を身につける機会が増えました。
スキルアップとチームの成長を目指す「勉強会の目的と取り組み」
サポートエンジニアチームでは、メンバーのスキルアップと業務の質向上を目的に勉強会を実施しています。単なる知識習得にとどまらず、実務に活かし、キャリアにつなげ、チーム全体を成長させる ことを目指し、次の3つの目的を掲げています。
目的1. 実務に活かせるスキルの向上
サポート業務では、製品の検証や運用、品質保証の知識に加え、テスト設計や自動化、影響調査などのスキルが必要です。これらを実践的に学び、日々の業務に活かせるようにすることが勉強会の第一の目的です。
工夫:実務に直結するテーマを選定
メンバーが「知識を得るだけでなく、すぐに活用できる」よう、勉強会のテーマを業務課題と結びつけています。
たとえば、Playwright勉強会では、E2E(エンドツーエンド)テストの自動化手法をハンズオン形式で学びました。参加者はすぐに業務へ応用できました。実際に、勉強会の翌週には自動化テストの導入を進めるメンバーが現れ、成果につながりました。
目的2. キャリアの方向性を明確にする
サポートエンジニアとしての専門性を高めるだけでなく、品質保証やシステム運用、開発との連携など、多様なキャリアの選択肢を意識できるようにすることを目的としています。そのため、 ITスキル標準 ( IT 分野で働く人がどんなスキルを持っているかを客観的に評価するための基準)を活用してスキルの棚卸しを行い、各メンバーが習得すべきスキルを明確にしています。
習得すべきスキルと達成度を可視化
工夫:スキルの可視化とフィードバックの仕組み
ITスキル標準を基に、サポートエンジニアに必要なスキルを整理し、それに沿った勉強会のロードマップを作成しました。スキル習得の進捗を確認しながら、次に学ぶべき内容を計画し、定期的な1on1で上司と話し合う機会を設けています。

目的3. チーム内の知識共有を促進する
勉強会を通じて、チーム全体のスキルを向上させ、属人化を防ぐ ことも大きな目的です。知識が特定のメンバーに偏らないようにすることで、誰もが安心して業務に取り組める環境 を整えています。
工夫:持ち回り発表者制によるアクティブラーニングの実践
サポートエンジニアチームでは、「自分が知りたいことを学び、それを共有することで理解を深める」というアクティブラーニングの考え方を取り入れ、メンバーが交代で発表を担当する持ち回り発表者制を導入しています。
勉強会のロードマップは、運営者(梅田)が作成し、各メンバーが必要なスキルを明確にできるよう調整しています。発表者は、このロードマップに沿って準備を進め、知識を深めながらアウトプットの機会を得ることで、実務に直結するスキルを身につけています。
また、「分からなければ聞く」「確認しやすい」というサポートエンジニアチームの文化を活かし、発表後のディスカッションを活発に行うことで、相互理解を深めています。
持ち回り発表者制のメリット・デメリットとサポート体制
持ち回り発表者制は、チーム全員が主体的に学ぶ環境をつくるために導入しました。
しかし、発表者にとっては学びの機会となる一方で、準備の負担や進行の難しさといった課題もあります。そのため、発表者制のメリットとデメリットを整理し、より円滑に進めるためのサポート体制を整えています。
メリット
- 参加者が受け身にならず、主体的に学ぶ機会が増える
- 発表者を担当することで、理解を深めるだけでなく、伝える力も身につく
- 特定の人に負担が偏らず、チーム全体でスキルアップできる
デメリット
- 初めて発表者を担当するメンバーにとっては、準備に時間がかかる
- 人によって説明のレベルや進行のスムーズさに差が出る
サポート体制
こうした課題を解決するために、発表者向けのサポート体制を整えています。初めて発表者を担当するメンバーには、過去の資料を共有し、必要に応じて経験者がフォローすることで、負担を軽減しています。
「3種の神器」でレベルアップ!サポートエンジニアの資格取得戦略
資格取得の推奨
サポートエンジニアチームでは、業務に直結する資格の取得を推奨しており、特に JSTQB・ITILv4・日商簿記3級 は「3種の神器」として定着しています。これらに加えて、運用管理・技術インフラ・品質保証の知識を深めるため、さまざまな資格取得にも取り組んでいます。
資格取得は スキルの可視化 や キャリア形成の指標 となるだけでなく、実務での適用を意識した学習につながっています。
以下に、取得を推奨している資格を 「品質保証」「運用・管理」「技術インフラ」「業務知識」 のカテゴリに分けて整理しました。
サポートエンジアチーム推奨資格一覧
| カテゴリ | 資格名 | 推奨度 | 説明 |
|---|---|---|---|
| 品質保証 | JSTQB | ◎ | ソフトウェアテストに関する国際的な資格認定制度で、品質保証に必要な知識を体系的に学ぶことができる。 |
| 品質保証 | JCSQE | ○ | ソフトウェア品質保証に関する知識を体系的に学べる資格。開発プロセスや品質管理の基礎を理解し、実務での品質向上に役立てることができる。 |
| 運用・管理 | ITIL | ◎ | ITサービスマネジメントに関するベストプラクティスを体系化したフレームワーク。ITサービスの品質向上や効率化を体系的に学ぶことができる。 |
| 技術インフラ | LinuC | ○ | Linuxのシステム管理や運用に関する知識を証明する資格。サーバー管理やインフラ構築の基礎を体系的に学ぶことができる。 |
| 技術インフラ | OSS-DB | ○ | オープンソースのデータベースに関する資格認定制度。特にPostgreSQLの管理や運用に必要な知識を体系的に学ぶことができる。 |
| 技術インフラ | AWS(SAA) | ○ | クラウドサービス「AWS」に関する技術知識や運用スキルを証明する資格。インフラ設計やセキュリティ対策の理解を深め、クラウド環境の適切な活用に役立てることができる。 |
| 業務知識 | 日商簿記 | ◎ | 企業の運営や会計に関する基礎知識を体系的に学ぶことができる。 |
サポートエンジニアチーム全体のスキル向上を目的に、資格取得を積極的に推進した結果、資格取得者は年々増加 しており、以下のような推移を示しています。
資格取得者数の推移
「学習し成長し続ける」ために
サポートエンジニアチームの勉強会は、2024年度から本格的に始まり、まだ発展の途中です。現状、発表者が業務多忙や急遽の休みなどで勉強会がスキップになることがあります。勉強会を停滞させずに継続するには、発表者の負担を分散し、進行を柔軟に調整できる仕組みを整えることが重要です。今後も、勉強会の着実な継続を続けて、自分たちの成長につなげるために、勉強会運営の工夫を続けていきます。
また、これまでチーム内での学習が中心でしたが、他部署でも専門的な勉強会(リファクタリング最新技法など)が開催されていることが分かりました。今後は、社内の知見を活かし、他部署の発表者を招いたり、資料提供を受けたりすることで、学習の幅を広げていきます。
私自身も、勉強会の質を向上させるために、LT会やテックブログへの参加を継続し、資料作成やプレゼンテーションのスキルを磨いていきます。さらに、チーム内で関心の高いコンテンツ(最近であればコンテナ技術やNotebookLMを活用した業務改善等)についても学び、実務への応用を進める予定です。
「学習し成長し続ける」 という姿勢を大切にし、新しい知識を積極的に吸収しながら他業界の優れた事例も取り入れ、個人とチームの成長につなげていきます。勉強会を実践的な学びの場へと進化させ、さらに成長を加速させるため、今後も改善を続けていきます。